チイ兄の奴・・・あんなにチイ姉に念を押されてたのに、まだ帰って来ないって・・・
抜け駆けしたな・・・
クリスマス・・・菊丸家ではいつも恒例でイヴかクリスマスどちらかは家族揃って祝う事にしている。
昔は2日とも家族揃っていたんだけどね・・・
みんな大きくなるに連れてそれぞれの付き合いも出来てきて、自然とどちらか一日にみんなで合わす様にようになってきていた。
そして今年も恒例のように、どっちにする?って話になって、俺は絶対にイヴに大石に会いたくて、それだけは譲れなくて・・・だからみんなにお願いしてクリスマス当日をみんなで祝う日にして貰ったんだ。
それなのに・・・チイ兄は帰って来ない・・・
姉ちゃんもチイ姉ちゃんも・・・それに兄ちゃんまで帰って来たのに・・・・
「まぁいいんじゃない帰って来たら、抜け駆けした罰としてタダでは家に入れないって事で」
フライドチキンを口に運びながら、チイ姉が言うと
「そうね。じゃあ何を買ってきて貰おうかしら?」
姉ちゃんまで話に乗った。
俺はそんな二人を横目に、小さく溜息をついた。
こんな事なら・・・俺も抜け駆けすれば良かったかな・・・
昨日は大石の誤解を解く事と、天体望遠鏡をプレゼントして驚かす事に一生懸命で・・・
あまり甘えられなかった。
ホントはもっといっぱい一緒にいて、会えなかった時間分取り返したかったのに・・・
思った程一緒にいられなくて・・・帰らなきゃいけなくて・・・
それなのに会う約束も出来なくて・・・
こんな時に部活があれば必然的に会えるのに・・・
引退してしまった今ではそうもいかない。
「英二どうした?食べないのか?」
「えっ?あぁ・・・うん食べるよ」
心配そうに俺を覗き込む兄ちゃんに、俺は笑顔を向けて目の前のフライドチキンに手を伸ばした。
大石も今頃家族と祝ってるんだろうな・・・
毎年こうやってみんなで集まって祝うの、楽しみにしていたんだけど・・・
今はみんなと祝うより、大石と一緒にいたいって思いの方が強い・・・
大石・・・会いたいよ。
家族団欒のクリスマスパーティーも終盤、そろそろケーキを食べようか?
と姉ちゃん達がケーキの箱を取り出した時にインターフォンが鳴った。
〈ピンポーン〉
「英二出て」
「ホイホーイ」
きっとチイ兄だろうな・・・・
「はーい」
「俺。開けて」
やっぱり・・・
「チイ兄っ!今頃帰って来たのかよ!みんな待ってたんだぞ!」
「まぁまぁ・・・もう始めてんだろ?堅い事言うなよ!」
「駄〜目っ!大遅刻した罰!チイ姉が手ぶらじゃ通すなって!」
俺だって大石に会いたいの我慢して、ちゃんと参加してんだかんな!
「手ぶらじゃねーよ!英二にちゃんとプレゼント用意してんだぜ」
「えっ?俺に?」
「そう英二限定だけどな」
「う〜〜〜〜」
チイ兄のプレゼントって言葉に俺の心が揺らいだ。
俺限定って・・・なんだろ?
後ろでは姉ちゃんとチイ姉が
『私達のがないなら通すな』とか『英二限定ってどういう事?』とか・・・言ってるけど・・・凄く気になる。
どうしよ・・・開けたら姉ちゃんとチイ姉を裏切る事になるかな・・・
「きっと見たら喜ぶぜ・・英二」
「ホントに?」
「ホント!」
う〜〜〜仕方ない・・・・
大石に会えない今・・・他の事で気を紛らわさなきゃ・・・やってられないもんね。
「嘘だったら許さないからなっ!」
俺はチイ兄のきっと喜ぶって言葉を信じて、姉ちゃん達の『英二の裏切り者―!』という罵声を浴びながらも玄関に向かって走った。
「おかえり!チイ兄っ!」
勢いよく玄関を開けると、チイ兄が『寒む・・寒む・・』と手をすり合わせる様に入って来た。
「ねぇ。んで・・俺へのプレゼントは?」
「あぁ・・外」
「外?」
「塀の裏を見て来いよ」
それだけ言うと、さっさと靴を脱いでリビングへと入って行く。
「ちょっ!塀の裏って・・なんだよ!?」
チイ兄の背中に叫んだけど遅かった。
「ったく・・・」
俺はそれでも塀の裏にあるっていうプレゼントが気になって、そのままつっかけを履くとそっと玄関を出てみた。
うう・・・寒い・・・
腕組みしながら辺りを見渡しみたけど・・・特に異常はない。
兎に角・・・塀の裏だよな。
俺はそのまま門へと進んだ。
あぁ・・・何だか緊張するな・・・
塀の裏か・・・変な物じゃないだろうな・・・?
場所が場所だけに近づくと不安になってきて、俺は心の中で勢いをつけた。
よし・・・見るぞ・・・せーの・・・
「あっ!!!!!」
「えっ?」
緊張しながら覗いた塀の裏には、何故だか塀に隠れるように張り付く大石。
なななな・・・なんで大石!?
「なっ・・・何してんの大石?」
「えっ?あぁ・・その・・あれ?お兄さんは?」
大石はキョロキョロと辺りを見ている。
「チイ兄なら、もう家の中だけど?」
「あっあぁ・・そうなのか・・」
「で、大石は何してんの?」
「いや・・だから俺はお兄さんに頼まれて・・・そのプレゼントになったというか・・・」
「えっ?何・・・チイ兄の言ってたプレゼントって大石なの?」
「あぁ・・だぶん・・・あっでも会ったのはここで何だけど・・・・」
頭をかきながら恥ずかしそうに立ち上がる大石、俺はそんな大石から目が離せない。
チイ兄の奴・・・きっとここで大石に会って・・・
家に入る為の口実に大石を使ったんだな・・・俺の大石をダシに使うなんて・・・
ホントに・・・チイ兄の奴・・・
なんて・・・心の中で毒ついてんのに・・・顔は嬉しくて、自然と緩む。
大石・・・大石がいる。
そう思うだけで、もう駄目だ。
嬉しくて仕方が無い・・・
チイ兄からのプレゼント・・・100%チイ兄が大石を呼んだ訳じゃないってわかってるのに・・・
それでも今までチイ兄から貰ったプレゼントと名のつくものの中で・・・
今日のプレゼントが一番嬉しい・・・って思うのは・・・
「大石っ!」
俺は大石に抱きついた。
こんなにも大石に会いたいって思っていたからだ。
「わっ!英二」
「嬉しい!ねぇ兎に角入ってよ。寒かっただろ?」
「いや・・・英二の顔を見たら、帰るつもりで来たから・・」
「えっ?もう帰るの?」
「うん・・」
それなのに・・・せっかく会いに来てくれた大石はつれなくて・・・
俺は大石の首にぶら下りながら、不満な顔を大石に向けた。
「なんで?」
「いや・・・だって家族で祝ってる最中だったんだろ?」
「それは・・・そうだけど・・・ホントに顔見てすぐに帰るつもりだったの?」
ここまで来て・・それはないじゃないの大石・・・?
「えっ・・まぁ・・・それは・・・」
恨めしそうに見ると、大石が目線を外して自転車を見た。
俺も大石の目線を追うように、自転車を見る。
何・・・あっ・・・!?
塀の横に邪魔にならない様に止められた大石の自転車・・
その荷台には昨日俺があげた天体望遠鏡
大石持って来てたんだ。
って事は・・・ホントは星を見ようって誘ってくれるつもりだったのかな?
顔を見に来ただけじゃなくて・・・ホントはちゃんと誘ってくれるつもりで・・・
「ねぇ大石。ちょっと待っててよ。俺、コート取って来るからさ」
俺は大石の首から腕を解くと、そのまま玄関へと走って行った。
「えっ英二・・?あっ・・おいっ!」
大石の呼び止める声が聞こえたけど、そんなのは無視して俺は家に入ると一目散に階段を駆け上がった。
自分の部屋に飛び込んで、コートとマフラーを掴む。
よしっ!これでOK!
後は・・・
そして同じ様に階段を駆け下りると、今度はリビングに入って行った。
「ごめんっ!大石来たから、今から出かけてくる!」
「えっ?ケーキは?」
「俺の分残しておいてよ!じゃあ行って来る!」
そうチイ姉に告げて、リビングを出るとトイレから戻るチイ兄と会った。
「プレゼント、驚いただろ?」
ニシシと笑いながら、悪戯っぽい顔を俺に向ける。
俺はそんなチイ兄に唇を尖らせて答えた。
「驚いたじゃないだろ?家に入る為に大石ダシに使っちゃってさ!」
「まぁまぁ・・・いいじゃん。そう言うなよな・・・ほらっ!」
それなのに全く悪びれた様子もなく、ポケットから何かを出すと俺に放り投げた。
「わっ!何?」
「プレゼント。外は寒いからな」
あっ・・・カイロ・・・
「チイ兄・・」
「まぁ・・気をつけて行って来いよ」
「うんっ!ありがと!」
俺はチイ兄から貰ったカイロをポケットに入れると、大石の元へと急いだ。
「おまたせっ!大石!」
「英二・・」
「じゃあ行こうか」
「えっ?何処へ?」
「何処かは俺もわかんないけど・・・それが使えるとこ」
俺は大石の自転車の荷台を指した。
「そのつもりで来てくれたんじゃないの?」
「あぁ・・・これは・・・違うんだ・・・これは英二に会うための口実で・・・」
「えっ・・・口実?」
何?口実って・・・どういう事・・?
「あっ・・いや・・もちろん一緒に星も見れればいいとも思ったんだけど・・・
こんなに雲が出ていたら、星なんて全く見えないだろ?」
「じゃあ見に行かないの?」
俺が大石を見上げると、大石は俺の家の窓から零れる光を見た。
「・・・・英二は・・いいのか?」
「いいに決まってんじゃん!だからこうやって出てきたんだろ?」
「そうだな・・うん・・気合で晴らしてみるか・・」
「気合・・?」
「あぁ・・・こっちの話。じゃあ行こうか英二」
大石は自転車に鍵を挿すと、ゆっくりと押し始めた。
俺はその横に並ぶ。
「行く当てはあるの?」
「まぁ一応な・・・だけど雲がな・・いや・・気合だな・・」
大石はブツブツまた気合って言っている。
一体気合って何なんだろう?
気になるけど・・・まっ・・いっか・・・それより・・
見れないって言いながらも・・・ちゃんと星を見るポイントは考えてくれてたんだ・・大石
「ねぇ大石。歩き難いかも・・だけど・・こっちのコートのポケットに手を入れてよ」
「ん?こうか」
「うん。でね・・よいしょ・・・どう?」
無理矢理自分の手も入れて、大石の手を握った。
ポケットにはさっきチイ兄から貰ったカイロが入っている。
ポカポカだ。
「あったかい?」
「あぁ・・暖かい」
「へへ・・暗いから出来る事もあるよね」
「英二・・・」
「で、着いた頃に晴れると、バッチリなんだけど」
「そうだな」
目を細める大石に俺は笑顔を向けた。
「あっそうだ大石・・・ひとつだけ聞いていい?」
「なんだ?」
「星を見る為の口実って何?」
大石は俺の顔を少し見ると、前を見据える。
「星を見る為じゃないよ。英二に会う為の口実。
英二に会いたかったから・・・その為に天体望遠鏡を持って来たんだよ」
「えっ?何で会う為に天体望遠鏡がいるの?」
「だから・・・昨日も会ったのに、今日も会うには理由がいるかなって思ったんだよ」
「何だよそれ」
俺がクスクス笑うと、大石は繋いだ手をギュッと握って俺を上目遣いに見る。
「笑うなよ。これでも真剣に考えたんだぞ・・・今日はまだクリスマスだしさ
家族で楽しく過ごしてるだろうし・・・それに・・・」
「それに・・・どうしたの?」
「英二何か欲しい物あるか?」
「えっ何?プレゼントって事?」
「あぁ」
「それなら昨日貰ったじゃん」
「それ以外に何かないか?」
「それ以外って・・・」
真剣に聞く大石に戸惑ってしまう。
どういう事だろ?大石の奴・・・
ひょっとして俺が天体望遠鏡をあげた事気にしてんのかな?
そんなの・・・気にすること無いのに・・・
俺だって大石に色々貰ってるし・・・何より俺が大石の喜ぶ顔が見たくてあげたんだし・・・
でも・・・もし貰えるなら・・・
「何でもいいの?」
「あぁ何でもいいよ」
「じゃあさ・・・」
欲しい物はひとつ・・・
「大石が欲しい」
「えっ・・・・」
大石の足が止まった。
真っ赤な顔をして俺を見下ろす。
「英二・・・誘うなよ・・・星見にいけなくなるだろ?」
「ばっ・・違うっ!一緒にいたいって意味だかんな。
さっきチイ兄だって、大石の事プレゼントって言ってたじゃん・・・だから」
だから・・・そういう意味で・・・・俺は・・・
「英二・・・」
「何だよ」
「星を見た後、俺の家に来る?」
大石が俺を引き寄せて、耳元で囁くように言う。
ズルイ奴・・・答えなんてわかってるくせに・・・悔しいから答えてやんない。
「大石がどうしても来てくれって言うんなら・・・行く」
きっと真っ赤だろうけど・・・反対にどうすんの?って顔で見返したやった。
「英二にどうしても来て欲しい」
大石は観念したのか、苦笑した後真っ赤な顔してそう言った。
そしてちょっと早足で、星を見るポイントへと歩き出す。
結局は・・・なんだって口実なんだよな・・大石・・
会いたいと思う気持ち・・・
少しでも長く一緒にいたいって気持ち・・・
その為に理由を作るんだ。
どんな時でも・・・
「大石」
「ん?」
「メリークリスマス!」
イヴに会ってお祝いしたんだけど、やっぱりクリスマスも会いたい・・・って思う・・・
そんな二人を書いてみたのですが・・・どうだったでしょうか?
今年最後の大菊・・・楽しんで頂けてたら嬉しいですvv
そして来年も宜しくです!